スピッツの15thAlbum「醒めない(2016)」に収められたこの曲は素直に受け取れば自分から離れていく”君”にエールを贈る”僕”の歌である。確かにそうだとわかっていても、しかし僕には現代の若者への、特にバンドマンやクリエイターに向けて書かれた歌にきこえるのだ。
幸せになってな ただ幸せになってな
あの日の涙が ネタになるくらいに
間違ったっていいのにほら こだわりが過ぎて
君がコケないように 僕は祈るのだ
”幸せになってな ただ幸せになってな”というパッセージはスピッツにしては、草野マサムネにしてはやや直線的な表現だ。それまで詩的な世界を展開していた彼は2000年に発表されたロックの名盤「ハヤブサ」以降ゴツゴツとした、男らしい言葉を使うようになる。近年では誤解を恐れずに言えばやや”クサイ”歌詞さえ見える。
子グマ!子グマ!同じアルバムに収められている「ハチの針」から引用してみよう。
シラフで恥を投げ捨て宣言しましょう!
そんで最低限君に届けばいいなと
だから邪魔をしたいんだったら勝手にやっとけ
しかし僕らにゃ通じないよその類のマインドゲーム
消せない胸のピースマークと夕日の色
忘れないだろうキラめいた汗と希望
あまりにクサイその歌詞は100%現実を伝えている。このような言葉を並べることができるようになったのはひとえにスピッツが結成から30年経ち皆大人に、というよりおじさんに(それも格好良いおじさんである)なったことの証明である。若い頃には言えなかったその恥ずかしいくらいストレートな言葉が今の彼からは何も隠すことなく直線距離で耳へと届く。音楽も言葉も年相応というものがあり、スピッツはまさにおじさんに相応しい音楽をやっている格好良いバンドマンだ。
話がそれちゃったな。子グマ!子グマ!、この曲の歌詞は若者へのエールに、上の年代の方からの励ましに聞こえるのだ。
子グマ!子グマ!荒野の子グマ
おいでおいでするやつ 構わず走れ
子グマ!子グマ逃げろよ子グマ
暗闇抜けて もう少しだ
おいでおいでするやつ 構わず走れ
もう少しだ。